超短編1
最近頭の中でずっと誰かが、自分の知らないもう一人の誰かと、喧嘩しているのが聞こえる。
1人は長髭でズボンを靴の下まで引きずっている。上着を着ていなく、よれよれの黄ばんだTシャツを着ている。そんな男が一人。
もう1人はきっちりとした身なりの男だ。色ははっきりしないが、スリーピースのスーツを着ており、杖を持っているが30代くらいだ。
おそらく前者が兄で後者が弟だろう。その兄が弟に目掛けて檄を飛ばしている。
話の内容を聞き取ることは出来ないが、兄が一方的に言葉をぶつけて、心の奥底の醜さを知ってほしい事が分かる。
その弟は、頷きもせずに淡々と話を聞くが、その目に映るのは兄ではなくどこかを向いている。果てしないどこかを。そのどこかに助けを求めている。
恐らくそれは「死」だ。
兄から流れゆく言葉に逆流するように、弟の切望的な視線がこちらに向いている。
兄には死んでほしい。しかし、その醜さを自ら知ってこの世で正確な死を遂げてほしい。
自らで命を絶つように支援しているのでは無い。正確な死だ。
この兄弟は、経済と精神をすべて弟に任せている。そして何か歯車が崩れ、兄は日常的に弟に檄を飛ばすようになった。
好きなことをしている兄は、その好きなことも気に食わない。そして少しでも気に食わないことがあると、弟に檄を飛ばす。
経済的に支援してもらっていながら。
そして弟は毎日檄を飛ばす兄に対して、毎日支援している。
その好きなことがいつか世間から認められるように。いつまでもこの世で息をしていられるように。
精神的な支柱となれるように。
この物語が、ずっと頭の中に浮かび上がっている。
前世の記憶というのだろうか。はたまた、このような現実に直面してみたいという私の切望なのだろうか。
自分の中に欲望を抑えている「兄」のような存在がいるのだろうか。
そしてこの物語を、この兄弟の事を最終、知らないまま。
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私がこの物語の真実を隠したまま。